「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
17歳のホステス(ジョイ第4回)
★インタビューへ~したたかなティーンエイジャー
 翌日の午後2時過ぎ、僕の携帯にテキストが入った。
 「昨日はありがとう。それからごめんね。明日午後2時頃に会いましょうね。またテキストするわ」
 僕は少し安心した。昨日の種まき・投資が無駄にならずにすみそうだ。僕はその日はアパートでできるデスクワークに専念し、静かに翌日を待った。
 そしてインタビュー予定日当日、午後2時が過ぎ、3時が過ぎてもジョイからの連絡はない。午後4時が過ぎ、『もう連絡は来ないかな』と思った矢先、僕の携帯のテキスト着信音が鳴った。ジョイからだった。

 「遅くなってごめんね。ゲストと別れたから、いつでもOKよ。すぐ来られるならLAの近くのセブン・イレブンで待ってるわ」
 というジョイからのメッセージだった。いつ連絡を受けてもすぐに出かけられるように準備していた僕は、すぐにアパートを飛び出し、あわててタクシーに乗り、指定されたセブン・イレブンに向かう途中で
 「10分で行くから待ってて」
 と彼女にテキストを送った。ぴったり10分ほどでセブン・イレブンに着くと、彼女はホットドッグをパクついていた。フィリピンのセブン・イレブンでは、ホットドッグはどの店舗でも欠かせない人気メニューだ。
 仕事明けのはずの彼女だが、僕と目が会うと疲れた様子のかけらも見せずに、ニコッと微笑んで手を振った。何か吹っ切れた様子でおとといまで背負っていた問題がすべて解決したのではないかと思うほどだった。
 僕は彼女の隣の椅子に腰掛け、食べ終わるのを待った。
 「今日は疲れてない? すぐに話を聞かせてもらっていい?」
 彼女が食べ終わったころあいを見計らって声をかけると
 「もちろんよ」
 と彼女はまた笑顔で答えた。僕らはおとといジョイに連れられて行ったビリヤードのあるビルのほぼ真向かいのスターバックスに向かった。落ち着いて話のできる場所として目をつけていた場所なのだ。

 二人ともカプチーノをオーダーしてインタビューは始まった。
 「この前は本当にごめんね。家の立ち退き問題とか、しつこいお客のこととか、お客の取り合いとかで、本当にむしゃくしゃしてたのよ」
 開口一番彼女は、おとといインタビューのために連れ出されたのに、応じられなかったことを詫びた。何の元手も無しに、若い女性が楽して大金を稼ぐ手段が売春だとわれわれも思いがちなのだ。しかし、先日のしつこい客とのやり取りのように彼女たちにもかなりの苦労があること、そしてまた仕事のストレスから来るダメージは、多少慣れてもそこから立ち直るにはちょっとした気晴らしが必要なこともよくわかった。
 「いや、気にしないで、えーと」
 と言いかけた時、また彼女がびっくりすることを言った。
 「私ね、最初からクーヤに嘘ついてたの。おととい20歳って言ったでしょ。でも本当はまだ17歳なのよ」
 僕は少しビビった。スターバックスの中だからこそ問題ないだろうが、彼女とホテル街など歩いていて警察の職務質問など受けたら児童買春で刑務所送りということもありえる。僕は一瞬身震いした。でも話を聞くだけだと言うのになぜ彼女は年齢を詐称しなければならなかったのだろうか?
 「イヤー、少しびっくりしたなあ。本当のことを言ってくれてありがとう。でもなんで嘘つかなくちゃいけなかったの? 僕は怒ってるんじゃなくて、君が嘘をついた訳が知りたいんだ。それじゃ、おととい見せてくれたID(身分証明書)はキアポかどこかで作ったニセモノなんだね?」
 「そう、IDはクーヤが言った通り、キアポのレクト通りのIDショップで作ったの。年をごまかしたのは、初めてクーヤと会った時、やさしそうな人だから常連客にしたいと思ったの。インタビューとか何とか言ってたけどぜんぜん信じてなかったのよ。だから、私が17歳ってわかったら、クーヤが女としての私に興味なくしちゃうんじゃないかと思って嘘ついたの」
 「あー、そうだったのか!! それで僕が君の体が目当てじゃないってわかったから本当の年を教えてくれたんだね?」
 「えー、そうよ」
 ジョイは素直にうなずいた。彼女の話に出たキアポとは、マニラ市北部の下町で『マニラの心臓』とも言われる活気あふれる商業地域である。同地区のレクト通りは、偽造ID(身分証明書)屋でも有名であり、いくつもの店が軒を連れねている。ここのID屋なら、有名大学の学生証から、卒業証書、有名企業のID、手作りヴィザまで、IDや各種証明書など、ほとんど何でもそろってしまうのだ。
 僕は、自分が携帯電話をなくして買い直したばかりということもあって、彼女の顧客情報管理の方法が気になった。おととい彼女との別れ際、ゲストと呼んでいたように彼女には常連客もついているようだし、それ以外の知人や友人の電話番号や週所、スケジュール管理などどうしているのか興味があったのだ。と言うのも、IDを見せてくれた時、彼女のバッグの中には、他に化粧品とコンドームしか見当たらず、手帳とおぼしきものは何もなかったからである。彼女はもしかして全部記憶しているのだろうか?
 「君はお客さんとか友だちの電話番号とか住所とかは、アドレス帳か何かに整理してるの? それとも大事な電話番号とか住所は覚えてたりとか?」
 「私は何かノートに書き付けたりとか、整理したりとかすごく苦手なの。だから電話の中に大事な電話番号だけ登録してるわ。手紙やカードは書かないから住所はまったく控えてないの。頭悪いから、電話番号もぜんぜん覚えられないわ」
 彼女は照れくさそうに笑いながら答えた。
 「でも、それじゃ携帯電話をなくしちゃったらボーイフレンドとの連絡が取れなくなっちゃうんじゃない?」
 僕はちょっとカマをかけてみた。彼女はすんなり僕の小さなワナにすんなり引っかかってきてくれた。
 「いつも携帯電話を絶対になくさないようにすごく気をつけてるから大丈夫。私、携帯電話をなくしたことも、盗まれたことも一度もないのよ。でもクーヤの言う通りかもしれないわね。もしなくしたり盗まれたりしたら、日本人のカレシと連絡取れなくなっちゃうから大変だわ。一巻の終わりね。でもやっぱりノートに書いたりするのはめんどくさいなあ」
 彼女に日本人のカレシがいることがわかった。どんな人物なんだろう? 後で聞いてみようと好奇心が頭をもたげてきた。
 それにしてもこのジョイという17歳のホステス。相手の状況や心を読んで対応してくるあたり、なかなか場数を踏んでいて、かなりしたたかなプロの娼婦である。しかし、それでいて少女の素直さを持ったなんとも不思議な女の子でもある。いずれにせよ、この素直でしたたかな夜の天使に対する僕の興味はますます膨らんでいた。
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by webmag-c | 2007-01-13 14:08