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「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:ローナ4 ある愛の物語( 1 )
ジプニーで始まった、美しき思い出
 マカティの高級カラオケで働くローナの物語も4回目。話は、来日前の大切な思い出にさしかかります。 


            ※          ※

★一線を超えない理由
 「……3度目の来日までは決して最後の一線は越えなかった。今でも連絡を取り合っている人はもういないけど……」
 彼女は言いよどんだが、理由は明白だ。ただ、彼女は身持ちの固い女性だとわかった。

 「君は、結婚するまで純潔を守るという考えの持ち主だったの?」
 「ええ。両親からずっとそうするように言われてた。実はね。私が高校生時代にダバオに住んでた時にボーイフレンドがいて、いつか結婚しようって約束してたの。それで未来の旦那さんのために私ができるたった一つのギフトを大切に取っておいたの」
 「美しい話だ」と思った。一瞬恥ずかしそうにうつむいてから彼女はまた語り始めた。

 「彼はね、私が高校に通う時にいつも乗っていた路線ジープの運転手で名前はエフレン。
 その時もお金がなくって。ジープを止めたいのに止められずにモジモジしてたら、止まってくれた。私が15で彼は18。『乗れよ。かわいい子は特別料金さ』って言って乗せてくれたの。払える分だけでも払おうとしたら『その金でメシ食えよ。最近痩せたぜ』って私の健康まで心配してくれていたの。すぐ彼のことが好きになったわ。一目惚れね」
 甘い思い出を語る彼女の瞳は明らかに遠く9年前を見つめていた。
 そして知り合って1年、『付き合ってくれ』の言葉の一つもないながら、二人の愛はどんどん深まり、ローナ16歳の誕生日に、まだ恋人でもない彼から出し抜けにプロポーズを受け、あっさり承諾。二人はめでたく将来を誓う合う間柄になったのだった。
 「恋人でもないのにいきなりプロポーズ。そして君もすぐOKなんてすごい早ワザだね」
 僕はちょっと冷やかした。フィリピンの伝統では、女性は好みの男性から求愛されても、もったいぶってすぐOKの意思表示をせず、わざと気のないフリをすることになっている。男性は、愛する女性の気を引くためにいそいそと女性の家を訪ねて、家事の手伝いをしたり、夕暮れ時に窓辺でセレナーデを弾き語りで歌ったり涙ぐましい努力をして、ようやく愛する女性のハートをゲットするわけだ。二人は、フィリピンの伝統からかなりはずれていたことになる。
 彼女は僕の冷やかしに伝統的なフィリピン女性らしい恥じらいを見せながら続けた。
 「彼は私がOKしたことで急に長い間押さえ込んでいた情熱に火がついちゃったみたいで、一気にキス。それから私の背中を抱いた手をスカートの中に入れてきたの。さすがにその時は結婚するまでダメって、パシッと彼の腕をたたいたの。彼が『ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ』なんて急にシュンとしちゃったんで、私が『結婚するまで我慢してね』ってやさしく言ったら、彼は『わかった。約束する。そうだ。そう言えば誕生日おめでとう』だって。順番がおかしいねって二人でゲラゲラ笑っちゃった」
 「そうか、彼がいたから他の男性には指一本触れさせなかったんだね」
 「指一本ていうわけじゃないけど、まあそんな感じね」
 彼女の言葉の意味はよくわかった。

★日本行きで引き裂かれるフィリピン人同士の恋
 フィリピン人の恋人がいるフィリピーナの場合、日本に出稼ぎに行くとなると、必ずと言っていいほど、彼氏との気まずい別れがつき物だ。気持ちよく『気をつけて頑張ってね』と送り出してくれるカレはまずいない。日本行きが原因で口論となって別れてしまう場合も多いし、永遠の愛を誓い合ったとしても二人が離れ離れになっている間にどちらかに新しい恋人ができて最後は別れてしまう、というカップルも多い。また、フィリピン人男性が一途な性格だと、別れと言う現実を受け止められずに自殺してしまう悲劇的なケースも珍しくない。こうした自殺のニュースを僕は何度も現地のタブロイド誌で見かけた。
 ローナとエフレンの場合もそうだった。彼女が来日前にダバオからマニラに上京する時も彼女の日本行きをめぐって大喧嘩になった。彼は決して賛成しなかったが、自分の経済力では、彼女の家族まで養っていくことはできないと最後はしぶしぶ納得したのだった。
 「でもね。彼は『しばらく離れ離れになるんだから最後の思い出をくれ』って言うの。『どうすればいいの』って聞いたら、『君がマニラに旅立つ前にドライブしよう』って。何が起こるのかうすうす気がついてたし、心の準備はできてたわ」
 彼と付き合って3年。ローナはもうそうなってもいいかなあ、と思っていた。親の言いつけに従うよりも愛する人の望みをかなえてあげたかった。ダバオの美しい夜景が見える丘の上にジープを止めて、後部座席に大きなござを敷いて、体験したことのない痛み、ひっきりなしに襲いかかってくる蚊の攻撃に耐えながら、その夜二人は初めて結ばれた。
 では将来を誓い合ったフィリピン人の恋人のために、日本の恋人たちと絶対に一線を越えなかった彼女が、4回目の来日でなぜ日本人の恋人に身を委ねたか? 新たな謎が芽生えた。
(続きは次回に)
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by webmag-c | 2006-09-06 20:31 | ローナ4 ある愛の物語