「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:ローナ5 初恋の終わり( 1 )
4回目の来日で越えた一線
 マカティの高級カラオケで働くローナの物語、5回目。ローナの運命が大きく動きはじめます。

        *     *

★つらい遠距離恋愛
 4度目の来日で、ローナは瀬戸内海沿いの四国の漁村で働くことになった。日本にも田舎があることはよくわかっていた彼女だが、初めて店に向かう道すがら、ほとんど人通りがなく、あまりに閑散とした街並みを見て、お客さんが来ないのではないかと不安になった。
 しかし、お店は連日大盛況。しかもローナ曰くそんなド田舎で、彼女は思いもかけず日本人男性と結婚してしまうのだ。

 「愛情のない結婚だったと思うわ」
 ローナは日本人との結婚を軽くこの一言で総括した。
 店の客は漁業関係者がほとんどだった。後にローナの夫となるAさんもやはり漁業に従事し、同じ船で漁をする上司と店にやって来た。忘れもしない2003年11月。ローナはAさんの第一印象について話してくれた。
 「最悪ね。25歳と若いくせに態度が大きくて、命令口調で女の子を奴隷のようにこき使うの。筋肉質の大きな体で、むっつりしてて、黙り込むと怖かったわ。タガログ語も少しできるんだけど、下品な言葉ばかり。フィリピンパブで遊び慣れている感じでいやだったわ」
 「じゃ、何で最後は深い仲になったの?」僕は聞かずにはいられなかった。
 「彼、前の奥さんと別れたばっかりで、寂しかったらしいの。毎日のようにお店に来て、私を指名してくれた。『お前と一緒にいると寂しさを忘れられるんだ』が彼の口癖。その言葉にクラッときたの。だって寂しいのは私だって同じだもん。だんだんと彼の横柄な態度にも慣れてきて。同情がいつの間にか愛情に変わっていったのかしら」
 そんな愛の始まりもあるんだろうなあ、と思って僕は聞いていた。
 Aとの関係が深まっていく最中、ローナはフィリピンの姉から『エフレンが別のフィリピン女性と結婚した』という連絡を受けた。ローナはその時頭の中が真っ白になった。悪い冗談だと思いたかった。ともかく一刻でも早く彼の口から直接に真実を聞きたかったと言う。
 「すぐには信じられなくて、確かめようと思って彼に何度電話をかけてもつながらない、テキストしても手紙を書いても返事も来ない。1ヶ月必死で彼を追いかけて待ったわ。お店でやけ酒飲んで酔いつぶれて、減給のペナルティを受けたわ。『彼のことはあきらめよう』と決心した日、Aがお店に来て、エフレンのこと話したの。そうしたら『そんなやつ忘れちまえよ。俺たち結婚しよう』といきなり言われたの。すごくびっくりしたわ。冗談なのか、本気なのかわからなかった。だってそれまで『愛してる』って言われたことなんか一度もなかったのよ」
 しかし、ローナはAへの同情と失恋のショックに負けて誘われるまま彼に身を任せた。それでも初めてAと関係した時は、エフレンを裏切ったような気がして泣いてしまった。9年間も連れ添った仲だったし、もしかしたら彼の結婚はうそかもしれない、という思いもあった。

 僕は、彼女の話を聞きながら待つ身のエフレンのことを考えた。
 初めて結ばれた夜の翌々日、ローナはマニラに出発。そして8ヶ月のトレーニングを経て来日。
 6ヶ月の仕事の後、帰国しても彼の待つダバオに滞在するのは2週間ほど。以後大体8ヶ月の周期で、ローナのダバオ滞在中に2週間ほど同じ時を過ごすだけの恋愛関係。この時ばかりは二人はむさぼるように愛し合ったというが、エフレンにとってはいつまで続くかわからないローナのジャパン・ドリームの終わりを待つのは相当つらかったのではないか? 
 また、二人の出会いからもわかるように、エフレンは人のいい田舎の若者のようだし、かなりの男前だったというのだから、地元の女性からの誘惑も多かったはずだ。ローナにしても彼がいるからこそ、日本にいても大きな心の支えがあった反面、来日中は女性としての恋心を自由に羽ばたかせることはできなかった。
 『一番大切な部分はエフレンにだけしか許さない』という強い貞操観を貫くための葛藤もあったに違いない。
 このカップルも結局は遠距離恋愛の犠牲者なのだ。恋人同士がそんなに長期間離れ離れになっていていいはずがない。『どちらも悪くない。両方が犠牲者なのだ』と僕は思った。

(ローナのその後は次回に)
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by webmag-c | 2006-09-14 16:57 | ローナ5 初恋の終わり