「ほっ」と。キャンペーン
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:ローナ6 妊娠・結婚・出産( 1 )
あわただしい結婚式
マカティの高級カラオケで働くローナの物語6回目です。


           *      *

*初めて結ばれた日本人、Aとのその後
 しかし、現実は過酷だった。1ヵ月後にローナはAの子供を妊娠。Aは妊娠を知って急にやさしくなった。それでもローナは彼を本心からは愛せなかった。2004年の5月の終わりに帰国する時のサヨナラ・パーティにも『仕事が忙しいから』と言ってAは来なかったのだ。
 「何なのこの人って思った。やけっぱちな気分になったわ。シングルマザーになる覚悟だって決めたんだから」

 僕は気になるAとのその後、エフレンとの結末についてローナに尋ねた。
 「フィリピンに戻ったらすぐダバオに直行。エフレンに直接会って聞いたわ。結婚は本当だった。新妻がおどおどと見守る前で『うそつき』って言って彼の頬を思いっきりひっぱたいてそれでおしまい。
 Aは時々思い出したように電話をかけてきては、『結婚しよう。お前の家族も助けるよ』なんて言ってたけど、信じられなかった。何度か日本に行って、日本人に捨てられた女の子をたくさん見て、男性を見る目も厳しくなってたし、Aの態度から、どう考えても本当に愛されてるとは思えなかったから。
 時々電話してきては『愛してる。結婚しよう』なんて言ってたかと思うと、パタッと連絡がなくなっちゃうの。そしてまた思い出したように電話をかけてきて……その繰り返し。信じたくたって信じられないわよ、そんな男。それが突然、その年の7月にAがマニラのお姉さんの家にやって来て事態が急変したの。その時だけは、やっぱりAは私を本気で私を愛してくれていたんだわと思って喜んだ。
 Aは田舎から私の両親も呼び寄せて、『お嬢さんと結婚させてください』って床に土下座してお願いしたのよ。さすがにその熱意は家族に伝わって即OK。私もその時はすごく感激して泣いたわ。」
 それからAは、ローナの家族を動員してびっくりするほど手際よく、フィリピン側の婚姻関係手続き、教会の手配、判事の手配とか、あっという間にすべての段取りをつけて、結婚が成立するのを見届けると、『今度帰ってくる時は迎えに来るよ。一緒に日本に帰ろうな』と言い残してあっという間に日本に帰国してしまったと言う。
 その後、『生まれてくる子供のために』とか『お前の家族のために』って言って2ヶ月間続けて5万円仕送りしてきたが、それからパッタリ音信不通。子供が生まれた時も何の連絡もなし。それでもローナは子供には生まれる前からAと話していた日本人名をつけることにした。Aとの約束にそこまでこだわるのに納得いかない僕の気持ちを見透かしてか、
 「心のどこかでAがまた帰ってくるかもしれないと思って」
 とローナは説明してくれた。

 ローナは本当に人がいいと改めて思った。普通のフィリピン人なら、ここまで自分のプライドを踏みにじられたり、ひどい目に合わされた時は、相手をくそみそにけなすものだ。怒りや憎しみが高じるあまり、恨みを持った相手を刃物で刺し殺したり、ピストルで射殺したりと命のやり取りに発展するケースも珍しくない。だからこそフィリピンに長期に滞在する外国人にとって、フィリピン人との人間関係では「決して彼らのプライドを傷つけないこと」「恨みを買わないようにすること」は常識になっていると言っても過言ではないほどだ。
 しかし、これだけプライドを踏みにじられ、コケにされても、ローナはAの悪口ひとつ言わなかった。肉体関係だけで満足せず、わざわざ渡比して婚姻手続きを完結させ、子供が生まれる前にドロン。何なんだこのAという奴は! 憤懣やるかたない思いで、僕はこの恥知らずの無責任夫に対して彼女が望むことを聞いてみた。しかしその願いは、予想に反して控えめなものだった。

 「今は子供に満足にミルクも飲ませてあげられない状態なの。だからせめて子供のミルク代と、世話をしてくれているお姉さん夫婦へのお礼として毎月1万円でもいいから仕送りしてほしい。それができないなら、私との婚姻を解消してほしい。Aに望むことはそれだけよ」
 「『婚姻の解消?』一瞬何のことかわからずに僕は聞き返した。
(以降は次回に)
[PR]
by webmag-c | 2006-09-16 19:10 | ローナ6 妊娠・結婚・出産