「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:シエラ7 妹の彼氏( 1 )
しとやかな妹(シエラ第7回)
★またしても妻子持ち
 シエラと同じレストランで働く6人兄弟の4番目の妹ミルナは今年25歳だが、年齢よりずっと若く見える。10代でも十分通る。いつでもお姉さんの言いなりで、シエラとは似ても似つかないシャイな性格。言葉遣いもていねいだ。2000年、看護学校の2年コースを終わった後、シエラの強い誘いでプロモーション入りして2002年と2005年の2度エンターテイナーとして来日している。
「お父さんとお姉さんを手伝いたいです。でも私はシンプルな生活で十分。お金持ちになりたいとは思いません。今付き合っている日本人の彼氏と結婚したいです。彼は私の人生で初めての恋人です。私には彼だけで十分です」
 と照れるようにうつむきながら語った。
「日本にもう行かれなくなったら?」
 という質問には
「今は彼が毎月3万円、送ってくれてるから、生活の心配はまったくありません。でもいつまでも彼に頼っているわけにも行かないから早くきちんとした仕事を始めたいです。もう何ヶ月か待って望みがなさそうなら、日本行きはあきらめて看護学校を終えて看護婦になることに専念します。近いうちに看護士として日本で仕事できるかもしれないですから。日本がダメでもアメリカなら看護士や介護士を斡旋している親戚がいるから確実です」
 と語ってくれた。ミルナはお姉さんと違って絵に描いた餅を追いかけてはいない。現実的なプランを持っている。彼女の将来は大丈夫だと僕は思った。ただ、お姉さんたちのビジネスごっこに巻き込まるとあぶない。堅実でシンプルな彼女がお姉さんたちのゲームに巻き込まれないとことを祈るばかりだが、怖いお姉さんを目の前にしてそんなことは言えなかった。
 ミルナが日本人の彼氏に送金させているのは案の定、姉のシエラの入れ知恵だった。生活が苦しいからと言って彼氏に仕送りをさせるよう仕向けていたのだった。僕はミルナの彼氏について気になることをはっきりさせておきたかった。
「君の彼氏は独身? 奥さんや子供はいるの?」
「ええ、年齢は55歳で奥さんも子供もいるけど、いつか別れて私と結婚してくれるって」
 またしても妻子持ち! しかしミルナは彼の言葉をうのみにしてしまっている。
 同邦への裏切りかもしれないと思いながらもいつものおせっかい焼きの癖が出て僕はつい言ってしまった。
「ミルナ、彼の言葉は信じない方がいいと思うよ。僕もフィリピンパブで遊ぶ日本人男性をたくさん見てきた。奥さんのいる日本人男性でフィリピン人のタレントと結婚するために『奥さんと別れるから』と言う人は星の数ほどいたよ。でも実際に日本人の奥さんと別れてフィリピン人のタレントと結婚した人は数えるほどしか知らないんだ。彼のことは本当に慎重に考えた方がいいと思うよ」
「やっぱりそうなのかもしれないわね。お姉さんのこともあるし。でも何で日本人てみんなうそつきなんだろう」
 ミルナはうつむいた。
「いやそれは違うよ。日本人がみんなうそつきなんていうことは断じてないよ。フィリピンにも日本にもいい人もいれば悪い人もいる。正直な人もいればうそつきもいる。それはフィリピンも日本も同じだと思うよ」
 日本人はみんなうそつきと言われては黙っていられず、ちょっときつい口調で言ってしまった。
「ごめんなさい、クーヤ。気を悪くしないで」
 ミルナは僕の突然の反論にびっくりとおどおどした様子だった。
「いやいやそんなに気にしなくていいんだよ」
 僕はミルナが萎縮しないようにとりなそうとしている時、シエラが乱暴なことを言った。
「あなた、男なんてたくさんいるんだから、そんな日本人忘れちゃえばいいのよ。スポンサーとしてだけキープしておけばいいのよ」
 確かに心にもない結婚話を餌にミルナのようなまだ純粋なフィリピーナをだますのは悪い。しかし、スポンサーに仕立てるようにけしかけるシエラにはやはり怒りを禁じえなかった。対照的な性格の姉妹とシエラのボーイフレンドとの間に挟まって僕はなんとも奇妙な気分だった。
(次回、シエラの最終回です)
[PR]
by webmag-c | 2006-10-13 09:04 | シエラ7 妹の彼氏