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「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:ジャネット1 LAカフェのすぐ近く( 1 )
援交カフェとビリヤード
連載登場の4人目は、マニラ・エルミタ地区の援交カフェで働くジャネット(23歳/来日経験1回、歌手)です。

    ★   ★

★出会い
「クーヤ(お兄さん)お待たせ」
 スタッフ用の着替え室から出てきたジャネットを見て一瞬目を疑った。
 ほんの数分前まで、へそ出しの白いセクシーなセーラー服を見にまとってダンサブルな曲に合わせて扇情的に腰をくねらせて踊り、時には世界各国から集まった男性客の求めに応じてビリヤードの相手をし、華麗なキューさばきで次々と対戦相手をねじ伏せてきた彼女が、こざっぱりした私服姿で僕の前に登場した。
 真っ白いTシャツと、ボーイッシュなサイドボケットの着いたベージュのチノパン、瞳の奥に焼きついているセクシーなセーラー服姿のハスラーのイメージとのギャップにちょっと戸惑ったのだ。

 彼女との出会いは偶然だった。
 援交カフェとして世界的に有名なLAカフェに出入りする元ジャパユキの姿を追って毎日通いつめ、なかなかターゲットに遭遇できなかった時、すぐ近くに似たような援交カフェA を見つけ、たまたま足を踏み入れた。
 アマゾンのジャングルイメージした薄暗いAの店内では、ディスコミュージックにあわせて、カウンター席の中のお立ち台で、ステージで、通路で、はたまた2回に通じる階段でもウェイトレスたちが踊りまくっている。そのかたわらでは男性客の求めに応じてビリヤードに興じるウェイトレスもいる。僕は女の子たちを連れ出すことのできるゴーゴーバーに迷い込んでしまったのかと思った。
「タノンコ ラン。プウェーデ バ カヨン イテイクアウト?(ちょっと聞きたいんだけど、君たちを連れ出すことはできるの)?」
 僕は近くの踊っていないウェイトレスに確認のため聞いてみた。
「ヒンディ ポ プウェーデ、サー(お客様、それはできなんです)」
 と彼女は淡々と答えた。きっと連れ出しできるゴーゴーバーと勘違いする客が多いのだろう。彼女はさらに説明してくれた。
「私たちウェイトレスはダンサーでもあり、ビリヤードのお相手もします。でも私たちを連れ出すことはできない決まりになっています。一夜のパートナーをお望みのお客様にはその手の女性も自由に出入りしていますからご紹介しますよ」
「はー、そうなんだ。ありがとう」と答えながら、
「不思議な場所だ。面白い店を見つけたぞ」
 と僕は思った。
 ここにも援交のパートナーを捜し求める女の子たちはいたが、LAカフェに比べれば格段に数が少なかった。インタビューのターゲット探しで疲れ果てていた僕は、ここではひたすらくつろぎたかった。
「いっしょに楽しみましょ」
 などと言い寄ってくる援交志願の女の子たちには
「君といっしょに楽しみたいけど、そんなことしたら彼女に殺されちゃうよ。彼女はすごい焼きもちだから。まだ死にたくないんだ。だから勘弁してよ」
 などと適当にいなしながら、僕はウェイトレスたちとの取りとめのないおしゃべりと、踊り、当時覚えたてだったビリヤードを楽しみながらサンミゲール・ライトをラッパ飲みして安らいだ雰囲気に浸っていた。
 
 マニラ市のエルミタ地区にあるLAカフェは、プロの売春婦はもとより、セミプロやアルバイト感覚のまだ初々しい女の子に至るまで幅広いバリエーションの売春婦たちが数多く出入りする援交カフェとして、世界中のスケベ男たちにその名が知れ渡っている。
 それだけに丸いカウンターのある入り口付近のスペースと1階の奥のスペース、2回のライブスペース、2回奥のスペース、大きく4つに分かれる出会いのカフェは、1夜だけのパートナー、あるいは1夜の客を求める男とたちと女たちの駆け引きの場そのもので、脂っこくてギラギラしたむせ返るような熱気が立ち込め、僕には決して心地よい場所ではなかった。
 
 だからこそ、LAカフェに取材に行ったあとは、インタビュー相手探しにつながる収穫のあった日もなかった日も、気分をリフレッシュすることが必要だった。それでウェイトレスが踊ってビリヤードのお相手もしてくれるもうひとつの援交カフェAに通うのが日課のようになっていた。ここのウェイトレスは、みなフレンドリーで楽しい話し相手だった。みんなそこそこビリヤードのたしなみもある。
 この援交カフェAで最初に親しくなったのは、新人ウェイトレスのジョアンナとメアリーだった。二人ともミンダナオ島北東部の田舎町の出身で、素朴な田舎のフィリピーナの魅力にあふれた女の子たちだった。ビリヤードの腕も僕といい勝負。LA帰りの僕は、この店に入るとまずこの2人を探した。
 見つけるとたわいもない会話を交わしながら、客の少ない2階のビリヤード台でギャーギャー騒ぎながら、ついてもついても入らないお遊びビリヤードを楽しんで、夜11時から翌朝7時までの彼女たちの勤務時間に丸々付き合って徹夜してしまうことも珍しくなかった。
 それだけこの援交カフェでの時間は僕の取材活動にひとときの憩いとやすらぎを与えてくれていた。ジョアンナとメアリーには「再来日できなくなった元ジャパユキたちの現在の生き様を取材している」という今回のフィリピン滞在の目的は話してはいたが、まさかそういう人物を紹介してくれるとは思ってもいなかった。
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by webmag-c | 2006-10-24 01:38 | ジャネット1 LAカフェのすぐ近く