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「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:ジャネット5 彼氏との日々( 1 )
恋人との間の「壁」(ジャネット第5回)
★日本人の彼氏の秘密
「でも君が日本で働いていた時期は、法律がきびしくなる直前だから同伴がなかったり、お店の外でお客さんと会ってはいけないとかすごくきびしいルールがたくさんあったんじゃない?」
 錦糸町がエンターテイナーの取り締まり重点地区として狙い撃ちにされていたことはよく聞いていただけに、彼女の日本でのきびしい労働環境を察して聞いてみた。しかし、彼女の答えは意外なものだった。
「それがね。私のお店は同伴もあったし、お店のスタッフがする寮への抜き打ちチェックも全然きびしくなくて、私たちはかなり自由だったの。来日してすぐTと出会って、Tは毎日のように私を同伴してくれたの。私は日本語がほとんどできなかったけど、彼がタガログ語と英語が片言だけどできたおかげでお互いかなりよく分かり合えた。やさしくて楽しい人で私はすぐTが好きになっちゃって、知り合って1ヶ月もしないうちに午前3時過ぎに仕事が終わると、すぐ彼のマンションに直行するようになったの。彼のおかげでホームシックに悩まされることもなかったわ」
 彼女の方から転がり込んできてくれるとは何ともうらやましい話だと思った。
「それで彼とは」
 僕が言いかけると、ジャネットは古きよき時代を振り返るようににこやかに遠くを見つめながら語った。
「一緒に行くところと言えばパチンコ。彼はプロフェッショナルよ。行くたびにいつも勝つの。最高10万円稼いだのを見たわ。私もちょっとやらせてもらったけど全然ダメ。でも彼の隣で見てるだけでも楽しかった。日本ではパチンコで生計を立てている人がいるって彼が言ってたけどよく納得できたわ。食事と言えば吉野家の牛丼屋か焼肉屋さん。私が彼の家でフィリピン料理を作ることもよくあったわ」
「彼とは相当深い関係だったんだね。結婚話とかは出なかったの?」
 話の流れで彼女に聞いてみた。
「彼とは気持ちは深く結ばれていたと思うわ。でも彼、体に問題があって……」
 彼女が突然口ごもった。てっきりTさんが身体障害者なのかと思い、僕は先走って言った。
「そうか身体に障害があったんだね。でもそれが愛の障害になっちゃうのか。残念だね」
「クーヤ違うのよ。身体に障害があるんじゃなくて……身体に障害があるんじゃなくて……」
 彼女はまた口ごもってしまった。と思ったら今度は恥ずかしそうにクスクス笑い出した。僕はわけがわからなかった。
「どうしちゃったの? 大丈夫かい、ジャネット?」
「大丈夫、大丈夫」といいながら彼女の笑いはなかなか収まらない。しばらくして笑いが収まると、彼女は顔を真っ赤にして気を取り直していった。
「実はTはインポンテンツだったの」
 あー、そうだったのか? 身体の障害ではないが、これは男性、いや愛し合うカップルにとっては深刻な問題だ。でも人前で口にするには大分勇気がいる。まして女性ならなおさらだろう。話しづらいことを話して、ひとつの壁を越えたジャネットは彼との愛について再び饒舌に語ってくれた。
「Tと知り合って2ヶ月くらい。毎日仕事帰りには彼のマンションに一人で行って一緒に眠るの。抱きしめ合ってキスをして、体中を愛撫されて……でも彼は最後の一歩手前まで行くとすっと矛を収めるの。『それじゃ寝ようか』って言って背中を向けて寝ちゃうの。私は、ちょっと変わった人だけどこの人なら結婚してもいいかなあとか考えてたから、いつ深い関係になってもいいと思ってたのよ。じゃなきゃ一人暮らしの彼のマンションに一人で行ったりなんか絶対しないわ。だから彼が途中でやめてしまうのは理解できなかったし、中途半端で欲求不満が高じて行ったわ」
 それだけ心構えのできたフィリピーナにとって、Tさんの行動は真実を知らなければやはり奇妙だと思わずにはいられないだろう。ジャネットは物怖じしないタイプに見えた。このあと彼女がとった行動が僕には予想がついた。果たして僕の予想通りの言葉をジャネットの口から聞くことになる。
「それでね。ある日、我慢できなくなって彼に言ったの。『あなたなんで途中でやめちゃうの? 私はあなたが好きよ。あなたも私を愛してると思ってた。私の体に魅力がないから? それともあなたオカマなの?』ってね。今思うと本当にひどいこと言っちゃったと思うわ」
 僕はTさんの反応にすごく興味があった。
「彼はね。ベッドの上できちんと座りなおして。『ごめん。俺は男としてはだめなんだ。俺のモノは固くならなんだ。インポンテンツってわかるかい?』って。私はそういう病気は話には聞いたことがあったけど、現実に自分の愛する人がそんな病気を患っているなんてにわかに信じられなかったの」
 心やさしいジャネットなら多分Tを気遣って本当にダメなのかどうか文字通り身を挺して試してみたに違いない。
「それでTさんとジャネットは本当に彼がダメなのか試してみたんだね」
 ジャネットは大きな目をさらに大きく見開いてびっくりしたような顔で言った。
「クーヤなんでわかるの? クーヤはもしかして占いもできるんじゃない?」
「いや残念ながらそんな才能はないよ。だって君とTさんは愛し合っていたんだから、君が何とかしてあげたいと思い、彼も何とかしたいと思うのはごくごく自然なことだろう」
「ああ、そうね」
 ジャネットは納得顔でうなずいた。僕はその2人の実験に興味が沸いてきていた。
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by webmag-c | 2006-10-29 18:37 | ジャネット5 彼氏との日々