「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:レイチェル3 むずかしい相手( 1 )
生意気な天使(レイチェル第3回)
★携帯は応答なし
「チズクライ ヨメルニ キマッテンジャン バカニスルナ」
 乱暴な日本語で答えが返ってきたと思ったら、ブチっと携帯電話を切られてしまった。本当に生意気な子だ。彼女のかんにさわる日本語には慣れたつもりだったが、まだ修行が足りないようだ。僕は携帯電話をケースに収めてからも怒りがなかなか収まらない。フィリピン人は地図を読むのが大の苦手だ。僕は次回の約束に備えて彼女が地図を読めずに約束の場所にたどり着けないといけないと思って親切心から、
「君は地図を読めるの?」
 と聞いたら、彼女の怒りを買ってしまったのだ。
 それにしても悪い日本語を覚えて、劣等感が前面に出やすいレイチェルに対して、
「性格の悪いやりにくい相手だな。同じようにビールハウスに勤める他の元ジャパユキがいたらお願いしたいくらいだな」
 と改めて思っていた。

 そう、今日はビールハウスで知り合った元ジャパユキ、レイチェルとインタビューの当日。マカティ市とパサイ市の境目にあるマクドナルドで待ち合わせしていたのだ。
 約束どおりにインタビュー相手が来ないのは当たり前。僕は約束の午後3時を1時間過ぎたところで彼女の携帯電話を鳴らしてみた。シャワーでも浴びているのかなあと思ったら、
「キョウ ヨウジアル キャンセル アシタ オナジバショ オナジジカンニ イクヨ」
 とあっけなく、ドタキャンを食ってしまった。彼女には何の悪気もない。
「日本人なら、せめて詫びの一言も添えて自分のほうから電話でもかけてくるよなあ」
 などとぼやいても仕方がない。ここはフィリピン、しかも僕はインタビューをさせてもらう立場だからなおさら怒ってはいけない。むしろ彼女の方から次回のアポを切り出してくれたことに感謝すべきだ。今回の取材では1回ドタキャンを食うと2度目はなく、それっきりというのがよくあったからだ。
 こうして1回目の約束はあっさり流れた。翌日、彼女が言い出した2回目の約束の確認をとろうと、何度電話しても呼び出し音がなるばかりで彼女は応答してくれない。テキストを送っても返事は返ってこない。テキストとは携帯電話番号をメールアドレスのように使って携帯電話間で行うメッセージのやり取りのことだ。フィリピンでは携帯電話間のe-mailのやり取りはできないのでテキストはこれに変わるものである。

★もう一度アポ取り
 彼女に連絡が取れないままかれこれ5日が過ぎた。こうなるとまた店に行くしかない。彼女の勤務時間は午後8時から午前4時が基本。僕は午後8時過ぎに店に入ったが、彼女はこの数日病欠していて次の出勤はいつだかわからないと言う。僕はマネージャーに前払い代わりの謝礼の100ペソと自分の携帯電話番号入りの名刺を渡してレイチェルが出勤したら、テキストしてくれるように頼んだ。
 2日後の夜8時過ぎマネージャーから「レイチェルが出勤している」というメッセージが入った。僕はすぐに店に向かった。
「もう元気になった?」
 彼女がテーブルに着くと、僕は何事もなかったかのように彼女の体調を気遣った。
「ありがとうクーヤ。ちょっと風邪をひいちゃって寝てたの。家族にも問題があって……」
 彼女がうつむいた。僕らの間に一瞬沈黙が流れた。そして彼女が思い出したように行った。
「クーヤ、この前はごめんね。明日なら絶対大丈夫よ」
 よかった。彼女の方からインタビューのことを切り出してくれた。覚えていてくれたのだ。
「じゃ、明日の午後3時に同じ場所でね。ジョリビーじゃなくてマクドナルドだよ」
 僕は再び念を押した。ジョリビーでなくマクドナルドを選んだのは、隣り合う2件ではマクドナルドの方がいつもすいていて、より静かで落ち着いて話をしやすかったからだ。
 こんちはさよならという訳にもいかない。その晩も彼女に何本かビールを振舞ってから店を後にした。彼女はその日は店の出入り口まで見送りに来てくれた。
「じゃあクーヤ、明日の3時にマクドでね!」
「じゃあ、明日よろしくね」
 今度は来てくれそうだ。僕は少しほっとした気分で店を後にした。
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by webmag-c | 2006-11-22 17:32 | レイチェル3 むずかしい相手