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「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:レイチェル6 裏切られ続けた過去( 1 )
裏切られ続けた過去(レイチェル第6回)
★男性不信
 彼女は僕の前でなかなか本当の笑顔を見せてくれなかった。彼女の端正な顔には「私は誰も信じない」「私は誰にも決して心を許さない」という頑ななまでの決意にも近いような気持ちが表れていた。彼女はこれまでの人生の中でずっと人にだまされ続けたり、何か強烈な人間関係の挫折があったのではないか。彼女の全身から立ち上るような暗いオーラの一因がこの人間不信、または男性不信にあるのではないかと僕は思っていた。
 そこでストレートに聞いてみた。
「君は過去にボーイフレンドに裏切られたとか、人間関係とか恋愛でものすごく傷ついた経験はない?」
 彼女の表情が一段と険しくなった。眉間にしわを寄せ、視線を一瞬床に落としてから、気を取り直したように視線を上げて彼女は言った。
「お父さんを見て育ってきたから、男はみんな浮気ものだと思ってるわ。それから私3度男に裏切られた経験があるの。3人の男に本気で恋して裏切られたのよ。それでますます男性不振に陥ったの」
 ここまできたらどんな風に裏切られたのかも聞いてみたい。彼女が答えたくないといってところで質問を撤回すればいい。僕はちょっと勇気を持って尋ねた。
「3回男に裏切られたと言ったけど、どんな風に裏切られたの?」
 開き直ったように、意外にも彼女はすんなり話し始めた。
「最初は私が19歳の時、初恋だった。当時プロモーションの近くに住んでいた有名銀行に勤める25歳の行員が恋人よ。すべてが終わってからわかったことだけど、私たちが出会った時にはもうとっくに婚約者がいて結婚の日取りまで決まっていたのに私に言い寄ってきたの。ハンサムでとてもロマンティックで理解のありそうな雰囲気を持った人だった。私がジャパユキを目指してクラブで研修中であることを知っても『君がどんな生き方をしていてもいつも愛してるよ。いつか結婚しよう』なんて甘い言葉に乗せられて、気がつけば知り合って1ヵ月後にはラヴホテルの1室にいたの。彼の言葉を真に受けてすべてを与えてしまったあと、ピタッと連絡が取れなくなった。1週間後、我慢できなくなって彼の職場に押しかけていったら、彼は何食わぬ顔で同じ職場の婚約者を紹介したのよ。大声で『うそつき』って叫んだら、すぐに警備員につまみ出されておしまい」
「それは気の毒だったね」
 僕は心からの同情をこめて言った。でも僕はレイチェルと同じような被害にあった女性の話を何度か聞いたことがあった。やはり婚約者がいるのに、彼女すらいないふりをして他の女性に言い寄り、肉体関係を持ったらバイバイという話だ。フィリピン人男性の独身時代の女性関係は全般にかなり派手だ。それが結婚すると途端に子供たちには厳しい父親に変身してしまう。完全に結婚してしまうと大っぴらには浮ついた女遊びはできなくなるから、婚約すると、結婚式の直前には今が最後とばかりに遊ぶのだろうか? ただ、こんな話をすると彼女の男性不信や忘れていた怒りを増幅するだけなので自分の心にしまっておいた。

★『3度目の正直』
「それで2回目は、彼氏が私を捨ててオカマに乗り換えたの」
「そうだったの。それはつらい経験をしたねえ」
 僕は相槌を打ちながら、これはフィリピンならではだと思った。フィリピンではオカマは日本と比べ物にならないほど多い。その中には女性も恋愛の対象として見ることのできる両刀使いの男性(?)も多い。また、男性からオカマに方向転換する人も多い。しかしいずれにせよ、これもまたレイチェルにとっては痛烈な経験だ。
「3回目は日本で働いてる時にお客さんにだまされたの。奥さんのいる日本人と4ヶ月付き合ったの。一緒によくお店に来てた彼のボスが酔っ払った時に『彼はね。きれいなフィリピン人の奥さんがいるんだよ』ってポロっと言ったの。真実を知った時は本当に悔しかったわ。だって彼はね、私が自分の過去を包み隠さずに話したら、日本には『3度目の正直』って言うことわざがあるんだよ。だから今度は大丈夫だよ。僕が君を一生幸せにするよ」って言ってたのよ。それで私も男性を信じる気持ちを取り戻しかかってたのに……最後に彼に一度だけ真実を確認したら、あっさりフィリピン人の奥さんがいることを認めたの。自分からすっと身を引いたわ。彼も本当のことがバレるともう私のことを追いかけては来なかったわ」
 彼女の心の古傷につけ込んでことわざまで引用して、これは恋愛ルール違反ではないのかと僕は思った。あたり前のことだが、僕は恋愛では自分の婚姻上の資格を偽ったり、相手の弱みにつけ込んだり、悪意のあるうそのすべては絶対の禁じ手だと思っている。日本でのわずか6ヶ月間の労働が彼女の心の傷に上塗りしただけであってほしくはなかった。僕はそれを確認したかった。
「君の初来日は、心の傷を深めただけの経験になったんじゃない? 」
 彼女の反応は少し意外なものだった。
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by webmag-c | 2006-12-01 09:31 | レイチェル6 裏切られ続けた過去