「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:リセル6 父の公然の浮気( 1 )
父の公然の浮気(リセル第6回)
★出費も大きい今の暮らし
「稼ぎも大きいけど出費も多くて何とか食べてるっていう感じ」
 僕がリセルの今の暮らしぶりに話を向けたときの第一声だ。
「1ヶ月、ほとんど毎日LAに出入りしてお客さんが取れるのは月7日か8日くらい。近くのホテルについていって話をするだけっていうお客さんから、オールナイトでフルサービスのお客さんまでいろいろよ」
 彼女は肝心なことを中々言ってくれない。僕は彼女の話をさえぎって聞いた。
「それで1ヶ月平均で、どれくらいの稼ぎになるの?」
 彼女はかばんから小さなノートを取り出して計算を始めた。チラッとのぞき込むとそこには日付と金額が書いてある。彼女の売上帳と言ったところか? 先月は8人のお客さんで25300ペソねえ。他の月も大体それくらいだと思うわ」
 こともなげに彼女は言ったがこれは相当すごい額だ。円換算で約58,000円。最後の来日時の給料550米ドルとほぼ同額だ。これだけ稼いでいるのに日々の暮らしに苦労していると言うのが不思議だった。
 そこには彼女の複雑な家庭事情があった。

 リセルは1979年、ダバオで3人姉妹の長女として生まれた。6歳の時に父親の仕事のため、マニラの南西部に隣接するカビテ州に移り住んだ。父親は腕のいい電気工事師でリセルの幼少時には貧しいながら家族仲良く、食にも困らない暮らしを送っていた。そんな暮らしが狂い始めたのは母親が3番目の子供を出産してから体調を崩して家で寝込みがちになってからだった。
 父親は自分の性生活の相手はもちろん、家事すらも満足にこなせなくなったお母さんをあっさり見限り、潜在的に持っていた浮気癖を一挙に開花させた。母親を子供部屋に追いやり、夜な夜な違う女性を家に連れ帰り、床をともにするようになった。父親の公然の浮気は当然副産物をもたらした。父親の愛人たちは次々と妊娠・出産。狭い家は子供であふれかえった。家はいつも、争いと混乱にあふれ、リセルにとっては決して安らぎの場所ではなくなった。

 父親は家にろくに家にお金も入れなくなり、リセルたち母子の暮らしは急に逼迫しだしたのだった。リセルが小学校を卒業する頃からは食事も1日1~2回になり、何とか高校に進学しても、父親は勉強に必要な文房具代や通学ための交通費すらも出してくれなくなって、彼女は2年生半ばで高校を中退することになった。近所の雑貨店の店番をしながらお母さんを手伝って家事をするだけの日々が何年も続いた。まともな就職をしたくても高校中退ではまったくチャンスがなかった。
 そんな生活に転機が訪れたのは、近所で日本に出稼ぎに行った娘が帰国して、御殿のような素晴らしい家を建て、急に彼らの暮らしぶりがよくなったことだった。リセルはすぐにそのジャパユキにプロモーションを紹介してもらった。22歳の時、2001年のことだった。
 紹介してもらったプロモーションのオーディションを受け、すぐにプロモーションの所属のダンサーになった。そしてマカティ市内のローカルなカラオケなどでの実地訓練とプロモーション事務所でのダンサーとしての訓練など、3年間の時を経て彼女のジャパン・ドリームは、ようやく序章の幕開けとなったのだった。

「私、兄弟が何人いるかわからないのよ。本当の兄弟は3人だけど、お父さんが外で作った兄弟は数え切れないわ。今、『家には14人が暮らしてる』って一番下の妹がこの前あった時に言ってたわ。でもともかくこの家族を助けるために私が何とかしなきゃいけないと思って行動を起こしたの」
 彼女は運命とあきらめているのか淡々と語った。しかし、そこには長女としての責任感がしっかりと感じられた。それでも実際、そんなに大勢の家族(?)を彼女一人できちんと養っていかれているのだろうか? 僕は疑問をストレートに彼女にぶつけた。
「君一人で、彼らを養えてるの?」
「うーん、できるだけのことはしてるわ。でも養えてるのかどうか、わからない。私たちが住んでいるホテル代1ヶ月 15000ペソのうち、私の払い分5000ペソ、それから洋服代とか、化粧品代、食費、性病検査とか性器洗浄とかの病院代を残してあとは全部、月に15000ペソくらいはお母さんに送ってるわ。でもそれでも足りてないみたいね」
 彼女は、必ずしも助ける必要のないかもしれない擬似家族まで抱え込んで文字通り体を張った必死の努力をしているのがよくわかった。この国では売春は絶対悪だ。しかしここまで聞いてしまっては、僕は彼女を心の中で支援しないわけには行かなかった。

★リセルの仕事・ホステスの愛
 僕はここで彼女の一日の流れを聞いた。仕事はハードでも時間の流れは平坦なものだった。
 前日にお客がつかなかった時は午後2時頃に起きてまずシャワーを浴びる。それからルームメイトといっしょに午後3時ごろ近くの簡易食堂で昼食。そして部屋に戻ってテレビを見たり、ルームメイトと話をしたりして午後6時頃まで時間をつぶす。そして午後6時頃、また近くの簡易食堂で夕食。それから部屋に戻って入れ替わり立ち代りシャワーを浴びるのが7時頃、ゆっくりと着替え、念入りにメイクアップして午後8時ごろにLAに入店する。それから翌朝6時くらいまでお客を求めて店で待機する、といった具合だ。
 お客がついた時は、ケース・バイ・ケースだ。

 ここでリセルの仕事振りやセックス・ワーカーといわれる女性たちの具体的な仕事ぶりについて少し掘り下げて聞いてみた。
「もうかれこれ9ヶ月も仕事してるわけだけと、君のスペシャルサービスは?」
「クーヤったら。恥ずかしいわ」
 彼女は一瞬はにかんだあと、言葉を続けた。
「特別なサービスなんてないけど、私のお客さんは日本人だけだから、日本人が喜んでくれるサービスを心がけてるわ」
「日本人が喜ぶサービスって」
「恋人みたいな雰囲気を作ることね。言葉とかしぐさとか」
 なるほど、日本人はセックスに関してはロマンティスト、欧米人は野獣的とよく聞くが彼女のサービスの基本も的を得ているようだ。リセルは自分のサービスについてさらに続けた。
「あと、アブノーマルなことは除いてお客さんが望むことは何でもするわ」
「何でもってたとえば?」
 彼女はうつむいて恥ずかしそうに顔を真っ赤にして話し始めた。
「いろいろなポジションとか、フェラチオとか、それからコスチュームプレイとか。日本の高校生の制服を着せられたりしたけど、私がお客さんのリクエスト通りにするとみんなすごく喜んでくれた。それくらいはもう慣れたわ。ただ、ものすごく太くて長いバイブレイターとか、ロープとかろうそくとか、ムチとか、そういうのはもう勘弁してほしいわ」
 彼女は昨日の悪夢を思い出すように顔をゆがめて話した。
「やっぱり、そういう趣味のお客もいるんだね」
「いるのよ。でもたった一人だけだったけどね。ほとんどがノーマルな問題のないお客さんよ。その変態趣味のお客さんには今も付きまとわれて困ってるわ」
 彼女の眉間のしわがどんどん深くなっていった。
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by webmag-c | 2006-12-23 22:15 | リセル6 父の公然の浮気