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「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:リセル7 困った客( 1 )
困った客(リセル第7回)
★アブノーマルな日本人
 ノーマルな嗜好のホステスが、アブノーマルな客に悩まされるのはよくわかる。しかしリセルにつきまとう困った客とはどんな客なのだろう?
「困った客ってどんな人なの?」
 リセルは険しい表情のまま、イライラしたような口調で答えた。
「まだ、私がLAでの仕事を始めて間もない2番目のお客でHって言う人なの。60歳で日本の大企業を定年したばかりで、奥さんにはちょっと前に死に別れて今は独身らしいの。第一印象は温厚な初老の紳士でいい人だと思ったの。しかも1日15000ペソで3日間お願いしたいって言うの。始めはラッキーだと思ったの。でも実際には、セックスがすごく強くて最初の晩に5回もされたわ」
 すごいスタミナだ。EDに悩む男性たちがうらやむことだろう。僕はその驚きを素直に表現した。
「60歳で1晩5回って、そんな話聞いたことないな。それで君は疲れて困ったっていうこと?」
 と僕がリセルの困った理由を総括しようとしたら、彼女は首を横に振りながら言った。「それだけじゃないの。一晩に5回っていう異常なスタミナにもついていけなくて苦労したけど、もっと大変だったのはHがサディストだったことよ。初日は小さめのバイブレーターをちょっと使うだけで許してくれたからまだ我慢できたわ。でも2日目・3日目になると、エスカレートしてきて、最後の晩は、四つんばいの体制でベッドに手錠で両手をつながれて、体をロープで縛られて身動きできないようにして、体をむちでたたかれて、二つの穴は彼自身と、ものすごく太くて長いバイブレイターでふさがれて、痛いし、恥ずかしいし、最悪だったわ」
 60歳の絶倫サド男、僕も聞いているだけで気分が悪くなってきた。そんな気持ちの悪い男となぜ縁が切れないのだろうか?

★縁を切れない理由
「それでもその絶倫サド男とは縁を切れないんだよね」
「そうなのよ。3日間彼が滞在しているホテルに滞在したんだけど、3日目にいっしょにハリソンプラザ(マニラ市南部の大きなショッピングモール)に買い物に行ったの。通路で不動産屋さんが建売住宅の模型を置いて物件紹介をしてたの。Hが『僕らの家を買おう。どれがいい?』って聞くから、130万ペソの家を指さして『これがいいわ』って言ったら、『じゃ買ってあげるから引越しの準備しておいて』って言うのよ。『なに冗談言ってるの!!』って私は思わず笑っちゃったわ。
 地獄のような3日間が終わって、Hがレンタルしてた車で私の家まで送ってくれるって言うんで、彼に家の場所を知られるのはいやだったけど、私がLAで仕事をしていることは家族の誰にも言わないって約束させて、送ってもらったの。家に着くと、Hは片言の英語でお母さんやお父さんといろいろ話してたけど、私はもう疲れ果ててすぐに空いてたベッドで眠り込んじゃったわ。Hと過ごした3日間の後は体中痛いし、気持ちは悪いし、思い出すのも虫唾が走る、おぞましい経験で仕事をやめようかとも思ったの。
 そんな矢先にね、Hと別れてから1週間後くらいかしら、『お前がほしいって言ってた家を買ったぞ』って電話がかかってきたの。それでも半信半疑だったわ。彼とは二度と会いたくなかったんだけど、本当に買ったのかどうか確かめたくてLAで待ち合わせて、彼のレンタルしていたワゴン車に乗ったの。車に乗って1時間。模型で見たとおりの家が目の前に現れたわ。その時もしかしたら本当にこの人、本当にこの家を買ったのかしらと思い始めたけど、それでもまだ完全には信じていなかったの」
「じゃ、本当に買ったんだと信じたのはいつ?」
「Hといっしょにその家に入ったら何と私の家族が全員、その家に引っ越してたのよ」
「えーっ、ということは……」
「私がHに昔の家まで送ってもらった時に、両親はHに、私と彼が結婚を前提にして付き合ってて、愛の証として家を買ったからすぐに引越するんで引越しの準備をするように言われてたんだって。それでその時に『リセルを驚かせたいから、彼女は最後に家に連れてくる』って家族に説明してたらしいの。私を新しい家に連れて行く前に家族全員を先に引越しさせてたってわけ」
「でも、さっと130万ペソの家を買って、家族のことまでそんなに気を配ってるなんて、Hという人は相当君のことが好きみたいだね」
 僕は尋常ではないH氏の行動にリセルへの並々ならぬ入れ込みを感じた。
「そうね。でもどんなに気に入られても私はやっぱり変態男は嫌い。一生いっしょなんてごめんだわ。お金のために彼の変態的な性行為に3日間だけ耐えたけど、限界よ。両親も兄弟もこれだけ愛されてるんだから結婚してあげてもいいんじゃないってしつこく私を説得しようとしたわ。Hと私が結婚すれば一家の暮らしがよくなるのは目に見えてたから。でもやっぱり私は自分が愛する人と結婚したいの」
 なるほど、もっともだ。僕はリセルの言葉に『体は売っても心は売らない』という意地と、彼女の純粋さを感じた。
「それで今、その家はどうなってるの? 外国人は家の建物は買えても土地は買えないはずなんだけど、Hさんの買った土地の名義人は誰なの?」
 僕は素朴な疑問を彼女に投げかけた。
「家族はずっと住んでるけど、私は一度も帰っていないわ。いつもHが私の家族と一緒に暮らしているし、時々日本に帰ったかと思うとまたふらっとやってくるから顔を合わせたくないの。名義のことは興味がなくて聞いてないからわからないわ」
「そうか、なるほどねえ」
 虫唾が走るような変態男が待っていたんでは家族がそろっていても家に帰りたくはないだろう。またHが買った家など彼女にとっては、自分の家じゃないのだから誰のものであろうと興味がないのも無理もないことだ。

 変態男H氏の大判振る舞いでリセルの家族は当面、家賃の負担をしなくてすむ。食費や光熱費などの負担もない。リセルの家族の面倒を見るのは自分の責任ということで、Hが彼女の家族の生活費すべてを自分のふところから出しているというのだ。
 しかし、Hがリセルをあきらめた時、Hはリセルの家族を家からたたき出し、家族はまた貧乏暮らしに逆戻りすることをリセルは知っている。だから家族の生活費をHが出している時も、彼が日本にいて生活費までは出してくれない時も、毎月毎月せっせと母親宛てに仕送りしているのだ。
 父親と完全に家庭内離婚状態の母親は、リセルと自分の二人の娘という自分にとっての本当の家族のため、仕送りをしっかり貯金しているという。
 現在、リセルの最大の願いは、精力絶倫の変態男H氏がさっさといなくなってくれることだ。
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by webmag-c | 2006-12-25 22:25 | リセル7 困った客