「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
カテゴリ:08 エンターテイナーを追って( 1 )
日本に来られない彼女たちはどうしているのか?
 旅の始まりは、期待が大きければ大きいほど不安にもなるものらしい。
 夜のニノイアキノ空港、乗りなれたクーポン・タクシーのチケットを買って待っているわずかな時間にも、思いは空港をとっくに離れてフィリピン全土の元エンターテイナーたちや、彼女たちのとりこになった男たちのもとへと飛んでいく。
 取材をしながら、フィリピンを旅する中で、どんな出逢いがあるだろうか。
    *   *
 減少の一途をたどるフィリピンパブだが、その極楽的魅力を謳歌した日本人男性にとっては、思い出というにはまだまだ新しすぎる。
 だが、それ以上に過去の遺物の一言で片付けられないのは、フィリピンパブで生活の糧を得ていたエンターテイナーだ。仕事の場を失った彼女たちは、生活をかけた戦いを新たな場所で続けている。
 日本では、ペナルティや様々な屈辱的な就労規則で縛られていたとは言え、本国フィリピンでは考えられないような高給を得てきた彼女たち。ふたたびフィリピンの賃金水準で、まっとうな仕事をするのには相当な気持ちの切り替えが必要だ。
 エンターテイナーたちの中には、大学中退くらいの学歴を持つ人もいるが、日本以上に学歴重視のフィリピンでは、まっとうな仕事に就くのは至難の業だ。
 日本のような賃金は期待できない、就職のチャンスも少ない……だから彼女たちの、フィリピンパブに始まる物語は終わっていない。生活を守るためには、終わらせるわけに行かないのだ。
 いつともわからぬ日本行きを待ちながら、マニラや大都市の日本人向けのカラオケ店で頑張って働く女性、日本行きを待つうちに売春婦に身を落としてしまった女性、デパートガールや会社勤めなどをしながら日本行きを心待ちにする女性、エンターテイナーの道を断念して、看護士・介護士などの技能を身につけて出稼ぎの道を探す女性、いまだ見ぬ日本行きの夢に思いを馳せるエンターテイナー予備軍、ジャパン・ドリームをあきらめてフィリピン人の恋人と結婚した女性、フィリピンにいながら言葉巧みに昔のお客をスポンサーとしてお金を引き出しているしたたかな女性、フィリピンにいながら日本人男性の相手をするインターネットのライブチャット・コンパニオンとして働く女性など、身の振り方は様々であろう。
 また、フィリピーナの魔力に取りつかれた日本人男性に目を向けても、日本にいて新しい恋人を求めてさ迷い歩く人、日比両国に別れて暮らしながらも、時々渡比したり、電話やテキスト、チャットなどでコミュニケーションを保ち、着々とフィリピンパブで出会った女性と愛を育んでいる人、愛し合っていたつもりが、結局お客さん・スポンサーの1人として利用されただけだったり、コミュニケーションが途絶えがちになることによって結局破局してしまった人、フィリピンに何度か渡航するうちに、愛を求めていた人からただの夜遊び人になってしまった人……様々な人生模様があることだろう。

 今回の旅の目的は、第一に、消えたエンターテイナーのその後を追うことだ。これから出逢うであろういろいろな生き様は、日本ではエンターテイナーだった、あるいはそれを目指したフィリピーナたちのそれぞれの今であり、未来でもある。
 そしてまた、エンターテイナーとの愛に夢を馳せた日本人男性たちのその後も見てみたい。自分自身にも一瞬先は見当もつかない彼らの今を伝えることができたら、と思う。
 さらに、旅の道すがら、僕の人生を180度変えてしまったリリーとの再会があったらなどと、かなわぬ夢を見る自分もいる。そんな意味で今回の旅は、リリーとの奇跡の再開を求めての旅でもある。
     *   *
 「タクシー・サー」
 思案に暮れがちな僕のところへタクシーが来た。今回の活動拠点である、かつて自分が暮らしていたアパートへの道順をドライバーに告げると、タクシーは夜の帳に包まれたマニラの町に静かに吸い込まれていく。
 旅はまだ始まったばかりである。

(第1部終わり)
*次回より、ジャパニーズ・カラオケ勤務、ローナ[23歳]の物語を掲載します。ご期待ください。
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by webmag-c | 2006-08-14 17:05 | 08 エンターテイナーを追って