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「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
高級カラオケクラブの裏側
今回から、著者のフィリピンでの取材報告が始まります。
最初に登場していただくのは、ジャパニーズ・カラオケ勤務のRona(ローナ/23歳)です。

     *    *

★シンデレラの今
 「今はどうしようもなくて……暮らしは本当にひどくてどん底なんだけど、待つことしかできないのよね。私には」
 23歳、来日経験4回、最後の来日からもう一年近くも次の機会を待つローナは、開口一番ため息混じりに話しだした。
 身長150㎝、体重39㎏と小柄で華奢な彼女は、最後の来日で出会った日本人男性との間にもうけた一児の母でもある。

 僕はマニラにつくとすぐに、来日の道を閉ざされたままのフィリピーナたちを、知人の紹介・情報提供など、できる限りのツテをたどって探し始めた。もちろん自分自身でも独自に探索した。日本人向けの店の多いマカティ市全域はもちろん、マニラ市のエルミタ・マラテ地区、パサイ市全域、パラニャーケ市のバクララン地区なども歩いた。
 そんな時、マカティの日本人向け高級カラオケクラブで知り合ったのがローナだった。特別きれいとか、かわいいというわけではない。素朴な田舎の娘という雰囲気を漂わせている。笑うと瞳の奥に悲しみがにじんで、何か気になる娘だった。彼女もまた、2005年3月15日の法改正の犠牲者だ。
 日本に行きたくても、行かれないエンターテイナーの苦しい現状、日々の生活をかけての必死の戦い。誰だって喜んで話したくなるような楽しい話ではない。だが僕はあえてそれを聞くためにフィリピンにやってきた。カラオケで出会った元エンターテイナーたちの口は一様に重かった。ただ、ローナは初対面にもかかわらず、取材の趣旨を説明してインタビューを申し入れたところ、すんなり承諾してくれたのだった。
 そして今、彼女の休日の日曜日、僕はマニラ首都圏の北の端にあるバレンズエラ市の彼女の家を訪問し、今の暮らしぶりについて尋ねている。

 「どれくらい苦しいの?」
 ローナにはつらい質問だが、僕はまず彼女の苦しさの実態はっきりさせておきたかった。
 「日給は150ペソ。レディス・ドリンクや指名が取れれば、バックや給料のアップもあるけど、若くてかわいい女の子たちが次々に入ってくるから、指名やドリンクを取るのは至難のワザ。月収は少ない時だと4000ペソ。多い時でも6000ペソくらいにしかならないの。給料のほとんどは、子供のミルク代、お姉さんに払ってる子供の世話代、毎月の両親への仕送りで、消えちゃって自分のために使えるお金は1ヶ月1000ペソ以下よ」
 僕は愕然とした。マニラ首都圏の法律で定められた最低賃金は1日275ペソだ。だからローナは最低以下の条件で働いてることになる。日本人の酔っ払い相手の何かとストレスの多い仕事で日給150ペソとは! もう少しきちんとした仕事、たとえば有名レストランのウェイトレスだって、日給180ペソ前後は取っている。日本料理店ではウェイトレスの日給が一律340ペソという店もある。彼女の薄給がまず気の毒だった。
 1ヶ月1000ペソ以下で生活しているというのも驚きだった。1日平均33ペソで食費、化粧品代、衣装代、交通費などすべてをまかなっていることになる。1日3食して、適当にレジャーを楽しんで……そんなまともな暮らしは絶対に無理だ。
 「朝は食欲がないから食べない日がほとんどね。昼の12時頃に寮の友だちといつも同じ食堂に行って、魚か野菜料理のおかずをどちらか1品とご飯を注文するのが日課になってるわ。何しろ予算が1日30ペソだから、これが1日分の食事になることが多いわね。肉料理は高いから手が出ないわよ。もし仕事の時に、指名してくれたお客さんが食事をオーダーしてくれたらさらにもう1食ありつけて本当にラッキーっていう感じ。1日2食できる日なんてめったにないから」
(以降は次回に)
by webmag-c | 2006-08-17 16:56 | ローナ1 1日1食でカラオケ勤務