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「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者白野慎也が追う渾身のノンフィクション
フィリピン人エンターテイナーの入国が、厳しく抑えられるようになって1年余り。
全国のフィリピンパブが、どんどん消えつつある。
歌に、踊りに、ショーに、つかの間の癒しを与えてくれた天使たちは今どこで、何をしているのだろうか? 
「旅の指さし会話帳フィリピン」の著者・白野慎也が、フィリピーナの“その後の人生”を追いかける、衝撃のレポート。
次のステップ(シエラ第8回/最終回)
★挑戦し続ける姉妹の夢
 結局、姉妹が7年もかかって稼いだお金はほとんどゼロになってしまった。しかし、シエラはめげない。
「めげてる暇なんてないわ。またはじめからやり直せばいいんだから」
 と笑顔で語る彼女の前向きな気持ちは買える。ただ彼女の頭の中には失敗に学んで同じ過ちを繰り返さないようにしようという意識が根本的に欠けている。余計なお世話なのだが、その点をちょっと指摘した。彼女はもっともだとうなずいていたが、僕の言葉がどこまで届いたのかはわからない。しかしそれ以上に、成否は関係なく、挑戦し続けることがこの姉妹にとっての幸せなのかもしれない。
 お金を使い果たして、夢をかけた挑戦が終わっても、彼女たちには生きる術が残されている。日本行きの道が立たれても、シエラには介護士として外国に出稼ぎに行く道があるし、ミルナはあと2年頑張って看護学校を終えて国家試験を通れば、アメリカなど海外でドカンと稼ぐ道が開けてくる。
 二人は人生の次なるステップに向けて着実に歩み始めている。すっかり打ち解けた僕らは再会を誓ってアリストクラット前で別れた。僕はすぐに振り返って彼らを見た。シエラは早速右手にタバコ、左手に彼氏の手をしっかり握りしめ、頭を彼の肩に預けるようにしてゆっくりと歩いていた。その後ろを遠慮がちに見るミルナがついていく様子はどこかこっけいだが幸福感が漂っていた。彼らは人生がどう転んでもハッピーなのだろう。僕はトコトン前向きに人生を楽しむ術を生まれつき身につけているシエラがうらやましかった。と同時に彼女たちから幸せのエッセンスを分けてもらったような気がした。
 マニラ湾沿いをかける風が心地よい午後10時過ぎ。ロハス大通り沿いは色とりどりにライトアップされ、ベイ・ウォークと新たな名前をもらって素敵な散歩道に変貌している。僕は海風に背中を感じながらベイ・ウォークを通って家路へに向かって歩いてみようと思い立った。北へ10キロほどの道のり。2~3時間もすればたどり着くだろう。疲れたら途中でジープニーにでもタクシーにでも乗ればいい。こんな気持ちになったのも、気持ちよい夜風とマニラの危険な夜までも快適な散歩道のように思わせてしまう新名所ベイ・ウォークの魔力かもしれない。
(シエラの章終わり。次回から援交カフェウェイトレス、ジャネットの登場です。ご期待ください)
by webmag-c | 2006-10-17 10:33 | シエラ8 次のステップ